庚申山荘は「避難小屋」
2026年5月30日に、プライベートガイドで皇海山に登ってきました。皇海山を訪れるのは昨年9月以来、約8ヶ月ぶりとなります。その間の最も大きな変化は、建物の老朽化に伴う改修を経て、庚申山荘が「予約不要の緊急時用の避難小屋」として、無料開放されたことでしょう。
皇海山は、2020年に群馬側からのアクセス(不動沢ルート)が閉鎖されて以降、栃木側のクラシックルートでしか登れなくなりました。さらに2024年に庚申山荘が閉鎖されてからは、「日帰り最難関の百名山」と称され、しっかり体力をつけた登山者が畏敬の念を持って登る山になりました。歩行距離26km、累積標高2300m、標準コースタイムは15時間。体調不良や天候悪化のリスクを考慮すると、非常にハードルの高い山行になります。
庚申山荘が避難小屋として再開されたことは、こうしたリスクを軽減する上で大きな意味を持ちます。銀山平の登山口から山荘までは約2時間。ここに前泊と後泊できれば、皇海山への行動時間を11〜12時間に短縮できます。確かにハードルは下がりました。しかし、庚申山荘はあくまで「避難小屋」であり、管理人のいる宿泊施設(山小屋)ではありません。悪天候や体調不良・疲労などの不慮の状況に見舞われた登山者が「命をつなぐための場所」です。この位置付けについては、日光市の足尾観光課にも確認しています。
ところが先日、下山時(夕方4時〜5時頃)に山荘へ立ち寄った際、その本来の役割とは異なる現状を目の当たりにしました。 山荘の中は1階、2階のあらゆる場所に寸分の隙間もなくマットと寝袋が敷き詰められ、実質的に「無料の宿泊施設」として満室状態。外ではあちこちで宴会が行われ、1つしかないトイレはキャパシティを超えてあふれ返っていました(トイレは現在すでに閉鎖されており、ホームページ等でも携帯トイレの持参・持ち帰りが必須とされています)。昨年までの「静かで厳かな皇海山」とは対極にある、とても賑やかな状況でした。
日光市もこの現状を把握しており、「登山者のモラルに依存せざるを得ない」と苦慮されています。何より懸念されるのは、「本当に緊急避難が必要な事態が起きたとき、山荘がその役割を果たせるのか」という点です。
鎖場渋滞
皇海山は通常、鋸十一峰の険しいピークを越える「鋸尾根」からアプローチし、下山は比較的平坦な「六林班峠」を経由する周回コースが一般的です。体力が十分にある往路に、アップダウンは激しいものの眺望が素晴らしい鋸尾根を歩き、復路は単調ながらなだらかなトラバースを下るためです(とはいっても滑落の危険箇所があります)。
今回、その鋸尾根の鎖場(蔵王岳)で、なんと登山者の渋滞に遭遇しました。鎖場の高さは約10m。岩場に慣れている人なら1〜2分で下りられますが、不慣れな場合は5分ほどかかっていたようです。私たちの前には10人以上が並んでおり、通過までに45分を要しました。岩場を通過するときの3点支持ではなく鎖にぶら下がって振られながら下りている方を見ると、こちらまでヒヤヒヤしました。
持続可能な山行のために
多くの人が皇海山という険しくも美しい山に挑戦されることは、とても素晴らしいことです。庚申山荘の再開も、安全登山のためのセーフティネットとして歓迎すべきことです。しかし、山荘の宿としての利便性が先行し、皇海山に見合った体力・技術、そして避難小屋を利用する上でのモラルが整わないまま入山者が増えると、事故や他の登山者とのトラブルにつながりかねません。
また万一、現在の状況を受けて日光市が庚申山荘の利用を制限したり、再度閉鎖という決断を下したりすることになれば、結果的に、私たちへの不利益、つまり皇海山へ挑戦できる機会が失われてしまいます。私にとって皇海山は厳かで、静謐で、自らの力と真摯に向き合う強さを求められる、本当に味わいの深い名峰です。その本来の魅力が失われず、そして登山者の安全が守られる山であり続けるために、この山を何度も歩いた一人の登山者として、現在の課題と思いを共有させていただきました。


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