
不帰ノ嶮(かえらずのけん)は後立山連峰、白馬三山と唐松岳をつなぐ縦走路です。槍ヶ岳〜穂高連峰をつなぐ大キレット、鹿島槍ヶ岳〜五竜岳をつなぐ八峰キレットと並んで3大キレットと呼ばれています。いずれも高度感のある岩峰の縦走路で、連続したクサリ場やハシゴを使って切れ落ちた岩稜帯を通過します。万一滑落や転倒をすれば大事故につながる危険な場所です。十分な岩場経験と技術、体力を身につけてから挑戦したい縦走路です。
今回は、この3大キレットの不帰ノ嶮をご案内します。不帰ノ嶮は白馬側からだと、天狗の頭というピークを越え、I峰、II峰北峰、II峰南峰、III峰(A、B、Cピーク)のいくつかの岩峰を通過します。唐松側からだと、その逆の順になります。
通過時に注意すべき2つのポイント
不帰ノ嶮のポイントは、次の2つです。
1、天狗の頭〜不帰キレット(最低コル)の激しい急登・急降下
2、I峰〜II峰北峰(核心部)の高度感とスラブ岩場
ポイント1:天狗の大下り・大上りの急勾配
天狗の頭のピークと不帰キレットと呼ばれる最低コルとの標高差は約400m。白馬側からは天狗の大下り、唐松側からは天狗の大上りとなりますが、足場は砕けた岩のガレ場で滑りやすく、下りは登りより転倒のリスクが非常に大きいです。逆に、唐松側からの登りは下りよりも歩きやすいですが、III峰、II峰(南峰、北峰)、I峰を越えてきた脚には、この急登はかなり応えます。なお、天狗の大下りを下っている方は、丁寧な歩行で石を落とさないように。また登っている方は上の方からの落石にも注意してください。
ポイント2:核心部(I峰~II峰北峰)の岩場と三点支持
不帰ノ嶮の核心部はI峰〜II峰(特に北峰)の間です。この区間は切り立った(切れ落ちた)岩場で、クサリやハシゴがつけられているものの、足を踏み外したり手のつかみが不十分だと数十メートル以上滑落します。この岩場は表面が滑らかなスラブ状で濡れていなくても滑りやすく、足の置き場が小さかったり手のホールドが少ないです。朝露や雨で濡れていると、難易度は格段に上がります。不帰ノ嶮の難しさは、ここに集約されます。足を置く時は「滑るかも」といつも以上に慎重に、そしてクサリがある場所では、安定した足場を確保したうえでクサリも確実に保持し、次の足場・ホールドが決まるまでは不用意に手を離さないことです。クサリがついていないところもあります。そうした箇所は3点支持で通過しますが、岩の割れ目や段になっているところを丁寧に見つけて小さな動作でゆっくりと登り下りしてください。滑りやすいので勢いをつけたり急な動作は危険です。
絶景ポイント:剱岳と富山湾を望む
不帰ノ嶮からの景色は素晴らしいです。白馬側からであれば右手に、唐松側からであれば左手に剱岳の全景とそこから伸びる立山連峰〜薬師岳の稜線、そして黒部五郎岳、三俣蓮華岳の先に小さく槍ヶ岳を臨めます。北に目を向けると、青く輝く富山湾も。こうした絶景は荒々しい岩峰に取り付く緊張をいっときほぐしてくれるはずです。
ルート比較:唐松側スタートか白馬側スタートか
不帰ノ嶮に行くには、白馬側からがいいか唐松側からいいか、また一泊でいくか二泊にするか、多くの方の悩みどころでしょう。
一般に、白馬側からアプローチする方が多いように思います。おそらく、白馬側スタートのほうが一泊で行く行程を組みやすいから、またI峰〜II峰北峰の核心部を登りで行けるからだと思います。
私個人としては、唐松側からのアプローチをおすすめします。理由は、唐松岳頂上山荘に宿泊すれば、翌朝フレッシュな足で不帰ノ嶮への核心部を通過できます。II峰北峰に到達するまでのIII峰はウォーミングアップ、II峰南峰から徐々に岩場で身体を慣らしながら核心部を通過できます。ただし、そこから先のI峰〜天狗の大上り、さらには白馬鑓温泉への急下りを経て猿倉に下山するまでのルートは非常に長いです。唐松頂上山荘から猿倉まで、2日目は11-12時間かかります。このルートであれば、天狗山荘か鑓温泉小屋でもう一泊した方が良いでしょう。
一方の白馬側からのアプローチでは、猿倉から入山して白馬鑓温泉を通って天狗山荘まで一気に上がります。そこで一泊。翌朝、天狗の大下り〜I峰を経て、核心部〜III峰と登り基調で通過します。唐松岳まで行けば、あとは3時間ほどで八方池山荘に到着し、リフトとゴンドラで八方に下山できます。これであれば、一泊で行程を組みやすいです。唐松側と比べ、核心部を下らなくて良いことと、1日目と2日目のバランスが良いことがメリットです(1日目8-9時間、2日目7-8時間)。ただ、核心部に到達するまでに、1日目の約2,000mの登り、そして天狗の大下りとI峰の登り・下りでかなり脚を使ってしまうことに気をつけてください。核心部に着いた時にもう疲労困憊という状況は避けたいですね。
不帰ノ嶮を安全に楽しむ
最後に、このルートをより安全に楽しむためのポイントをいくつかまとめておきます。
ヘルメットとグリップ力のあるグローブ 落石、転倒、滑落時対策はもちろんですが、出っ張った岩にうっかり頭をぶつけた拍子にバランスを崩すのを防ぐためにも、ヘルメットは必須です。また、長いクサリ場が続くため、すべり止め効果の高いグローブがあると手の疲労度がかなり違ってきます。
すれ違いはゆとりを持って 核心部の狭い岩場ではすれ違いが発生します。お互いに安全な退避スペースを見つけたら無理にすれ違わず、少し待ったり声をかけ合ったりしながら、気持ちよく譲り合って進みたいところです。
岩場の「濡れ」と「風」には要注意 不帰ノ嶮の岩肌は、水がつくと膜ができて想像以上に滑りやすくなります。雨天時や前日の雨で濡れている場合、また強風が吹いているときは無理をせず、別の機会に仕切り直す勇気も大切にしたいです。







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